黒毛和種肥育牛における成長ホルモン遺伝子多型とそのタイプ別肥育方法の検討


兵庫県立農業技術センター 畜産技術センター
岡 章生 岩本英治 龍田 健


【はじめに】


   黒毛和種には特色のある系統が存在するが、近年、全国的に系統の異なる牛が混在する状況となっており、タイプの異なる牛を同様の飼養方法で肥育すると産肉成績にばらつきが見られ問題となっている。成長ホルモン(GH)は肥育牛の増体性や肉質に影響することが知られている。牛GH遺伝子には127番と172番のアミノ酸置換を伴う2カ所の塩基配列の違いからA型(127番ロイシン・172番スレオニン)、B型(127番バリン・172番スレオニン)およびC型(127番バリン・172番メチオニン)の3つの遺伝子型が存在することが報告されており、産肉性と関連する可能性が示されている。そこで、黒毛和種のGH遺伝子多型を調査し枝肉形質との関連を明確にし、さらに、産肉性に大きく影響するビタミンA給与法と肥育前期の給与エネルギー水準についてタイプ別の効率的な肥育方法を検討した。


【材料および方法】


   国内10府県で肥育された黒毛和種肥育牛298頭の枝肉脂肪からDNAを採取し、Chikuniらの方法でGH遺伝子型を分析し枝肉形質との関連性を調べた。
   次にタイプ別肥育方法を検討するために、GH遺伝子型がAA型(8頭)とBC型(10頭)である黒毛和種去勢牛を用い、ビタミンA給与制限時期(12-23カ月齢:12カ月齢開始区、16-27カ月齢:16カ月齢開始区)が増体量、肉質に及ぼす影響を調べた。制限期間以外はビタミンA100万IU/月を投与し、制限終了2カ月前から20万IU/月を与えた。飼料は各区とも同一のものを給与し、濃厚飼料は17カ月齢までは制限給餌しその後は飽食とした。粗飼料はチモシー乾草と稲ワラを制限給餌した。
   さらに、肥育前期の給与エネルギー水準の影響を検討するためGH遺伝子型がAA型とBB型である黒毛和種去勢牛14頭を用い、肥育前期(10-17カ月齢)の給与エネルギー水準によりそれぞれ2区に分けた。すなわち、日本飼養標準から目標とする1日増体量(DG)を1.0kgとした高エネルギー区(1.0区)と0.6kgとした低エネルギー区(0.6区)に分け、A-1.0区(3頭)、A-0.6区(4頭)、B-1.0区(3頭)、B-0.6区(4頭)の4区を設定し産肉性を比較した。粗飼料は各区とも同量を給与し、濃厚飼料は前期には目標DGになるように給与量を制限し、後期(18〜29カ月齢)には飽食とした。また、GH遺伝子型別のGH分泌能を検討するためにAA型とBB型の牛について10カ月齢時に15分間隔で6時間経時採血を行い血漿中GH濃度をRIAで測定した。


【結 果】


   黒毛和種肥育牛298頭のGH遺伝子頻度はB型が53.2%と最も高く、次いでC型が30.4%、A型が最も低く16.4%であった。枝肉形質との関係では、枝肉重量およびバラ厚はAA型が他の型よりも有意に大きい値を示し、脂肪交雑はCC型が他の型よりも有意に高くなった(図1)。
   ビタミンA制限時期に関する試験では、体重、枝肉重量、ロース芯面積およびバラ厚はAA型がBC型よりも有意に大きい値を示した(表1)。ビタミンAの制限時期は両型とも枝肉重量、脂肪交雑に影響しなかったが、胸最長筋脂肪の脂肪酸組成は制限時期の
   影響が見られ、モノ不飽和脂肪酸割合は12カ月齢開始区が16カ月齢開始区に比べ有意に低い値を示した。
  また、肥育前期の給与エネルギー水準に関する試験では、体重は試験開始時よりAA型がBB型より顕著に大きく試験終了時には約140kgの差が認められた(表1)。前期終了時(17カ月齢)の体重は1.0区が0.6区よりも有意に大きくなったが、肥育終了時の体重は1.0区と0.6区で有意な差は見られなかった。枝肉重量はAA型がBB型よりも有意に重く、バラ厚は1.0区が0.6区よりも有意に厚くなった。胸最長筋内粗脂肪含量は、AA型では1.0区と0.6区で有意な差は認められなかったが、BB型では1.0区が24.9%であったのに対し0.6区が34.2%と有意に高い値を示した。血漿中6時間平均GH濃度は、AA型がBB型よりも有意に高い値を示した(図2)。


【考 察】


   GH遺伝子多型と枝肉形質との関連では、枝肉重量およびバラの厚さはA型遺伝子の存在により大きくなり、脂肪交雑はC型遺伝子の存在により高くなることが明らかとなった。このことからGH遺伝子多型は黒毛和種の選抜におけるDNAマーカーの一つとして利用可能であると考えられる。また、GH遺伝子型による増体性の違いにはGH分泌能が関与していると考えられた。ビタミンA制限開始月齢が12カ月齢から16カ月齢では、増体量、肉質に差は見られないが、早期からのビタミンA制限は牛肉の風味に関連するモノ不飽和脂肪酸割合を低下させると考えられる。タイプ別の肥育方法としては、A型の牛には肥育前期に高エネルギー飼料を与えバラ厚を大きくし、B型の牛には前期に低エネルギー飼料を与え筋肉中粗脂肪含量を高めることが効率的な方法であると考えられる。

 

 

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