放射線治療を実施した790例における各腫瘍の放射線反応率と急性障害の発生率に関する回顧的調査(1997−2006)


小澤信一、南毅生、中野康弘、大前省吾、加藤太司、南毅正
南動物病院(三重県)


【はじめに】  人医領域で初めてメガボルテージ放射線治療が実施されてから約50年が経過したが、我が国の獣医領域での放射線治療は限られた施設での特殊な治療法にとどまり米国の様な広く滲透した治療法とは言い難いのが現状である。その一方、この数年でメガボルテージ放射線治療が可能な施設が増えている事は大きな前進であるといえる。このような背景の中、我が国での放射線治療の現状を検討するために、過去9年間に当院で放射線治療が行われた全症例について回顧的調査を実施した。今回の調査では紹介病院先への追跡調査を行っていないため、寛解期間や生存期間については調査していない。


【材料および方法】  過去約9年間の間に放射線治療を実施した症例790例について、動物種、年齢、性別、治療部位、治療した腫瘍診断名、放射線照射方法、放射線治療中の反応状況と急性障害の内容についてカルテから調査を行った。


【成 績】  動物種は犬が85%、猫が15%であり、672例の犬の中では、雑種、ゴールデンレトリーバー、シェルティーが多かった。平均年齢は9.4歳(範囲1〜18歳)であった。積極的放射線治療(低線量高分割照射)を実施した症例が58%、緩和的治療(高線量低分割照射)を実施した症例が42%であった。治療部位は口腔内が26%と最も多く、次いで鼻腔19%、四肢13%と続いた(図1)。腫瘍の診断名は、扁平上皮癌が最も多く16%、次いで肥満細胞の腫瘍15%、メラノーマ10%、リンパ腫9%が続いた(図2)。扁平上皮癌に関しては、鼻腔内のものがほぼ半数、口腔内のものが約3割含まれていた。肥満細胞の腫瘍では、ほとんどの症例が手術を行いマージンダーティなグレード2の症例に実施されていた。リンパ腫に関しては、鼻腔内や前縦隔に発生した症例で多く行われていた。線維肉腫に関しては、犬の口腔内腫瘍、猫のワクチン関連肉腫の症例で多く実施されていた。
   放射線治療では、顕微鏡レベルの病変に対して照射を行うケースと、肉眼的病変があるままで照射を行うケースがあるが、今回は放射線照射による反応率をみるため、肉眼的な病変の治療中の経過を調査した。犬の口腔内腫瘍では、メラノーマと扁平上皮癌で高い反応率が示された(図3)。犬の鼻腔内腫瘍では、腺癌・扁平上皮癌では同様の予後が期待できることが報告されおり、今回の反応率はともに7〜8割と高い数値が示された(図4)。その他の犬の腫瘍に関して、リンパ腫のRT感受性が非常に高いことが多数報告されているが今回の結果でも約8割の症例で反応がみられ、さらに4割の症例では腫瘤が消失した。軟部組織肉腫では反応率が2割と低い数値が示されたが、サイズは変わらないまま長期のコントロールが可能であることが報告されている。肛門周囲腺の腫瘍に関しては、腺腫で反応率100%、腺癌で80%と高い数字を示した。一方で肛門嚢腺癌に関しては反応率30%と低い結果が示された(図5)。犬の肥満細胞の腫瘍にRTを実施した症例の約90%はグレード2の症例であり、その多くの症例は顕微鏡レベルの病変であった。肥満細胞の腫瘍の肉眼的病変に対するRTの効果は、反応率は7割と他の腫瘍に比べれば高いものの、顕微鏡レベルに比べると明らかに効果は低くなると考えられる(図6)。
   猫での治療に対する反応率の結果は、リンパ腫で犬同様の高い反応率が示された。扁平上皮癌に関しては、反応が明らかに犬よりも悪い結果だった。線維肉腫に関しては、8割近い症例で縮小傾向がみられ、予想以上に反応率が高いことが分かった(図7)。
   放射線照射に伴う正常組織の障害には急性障害と晩発性障害がある。急性障害は治療中・直後にみられ可逆的な変化で、皮膚や粘膜で多くみられ、この障害の重症度を決定する最も大きな要因は線量の強さ(一定時間あたりの照射線量)にある。犬では、一週間あたりの線量が10Gy未満の症例と10Gy以上の症例にグループ分けをした。10Gy未満の症例では急性障害が認められず、10Gy以上の症例では半数の症例で皮膚の急性障害が認められたが、重篤な障害がでた症例は5%であり、全ての症例で治療終了後に急性障害は治癒した(図8)。また、猫では発生がほとんどみられなかった(図9)。


【結 論】  各腫瘍の中で肉眼的病変が放射線照射によって縮小傾向を示しやすかった腫瘍は、犬の肛門周囲腺腫、犬・猫のリンパ腫、犬の鼻腔内扁平上皮癌、犬の肛門周囲腺癌、猫の線維肉腫、犬の肥満細胞の腫瘍であり、各腫瘍が治療中にどの程度縮小する見込みがあるか具体的な数値が得られた。または照射によってどの程度の急性障害が発生するかに関しても発生頻度が数値として得られた事により明確な飼い主への説明が可能になった。今後は、各腫瘍に関して追跡調査を実施し、生存期間あるいは晩発性障害の発生に関して調査を実施していきたいと考える。


(図は下に添付しています)

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

<障害程度>


   軽度な急性障害には皮膚や粘膜の発赤、脱毛が含まれる。
   中程度な急性障害には皮膚や粘膜のびらん、結膜炎、外耳炎が含まれる。
   重篤な急性障害には治療延期や早期終了が必要な程の重度な皮膚・粘膜の炎症が含まれる。

図9

 

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